東京高等裁判所 平成元年(行ケ)56号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第二号証の一、二によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 本願発明は、静電荷像を可視画像とする画像形成方法、特にキヤリアを混合しない絶縁性磁性トナーからなる現像剤を用いて画像形成する方法に関する(本願発明の出願公告公報第二欄第六行ないし第九行)。
キヤリアを混合しないトナーのみからなる現像剤を使用する画像形成方法には、毛ブラシ法、インプレツシヨン法、パウダークラウド法、オープンチヤンバー法等があるが、湿度の影響を受けやすい、連続調の画像を得ることができない、装置の構造が複雑になる等の欠点があり、その欠点を改良した方法も、使用が感光紙上に直接定着画像を得る場合に限定される、安定性高速性のうえで好ましくない等の欠点がある(同第二欄第二五行ないし第三欄第四〇行)。
本願発明は、右知見に基づき現像操作が湿度の影響を受けず、良好な連続調の画像を得ることができ、装置の構造が簡単なものですみ、現像効率がよく、しかも現像によつて得られる未定着のトナー像は静電的な転写方式を適用しても良好に転写することができ、さらに熱ローラ定着によつて良好な定着画像ができる画像形成方法を提供することを技術的課題(目的)とする(第三欄第四一行ないし第四欄第五行)。
(二) 本願発明は、前記技術的課題を達成するために特許請求の範囲(本願発明の要旨)記載の構成(昭和五九年三月一二日付け手続補正書第三頁第三行ないし第一四行)を採用した。
(三) 本願発明は、前記構成を採用したことにより、
<1> キヤリアを混合しないでも従来のキヤリアを混合して用いる簡単な現像装置を用いても静電荷像を良好に現像することができ、しかも現像によつて得られる未定着のトナー像は転写方式によつても良好に他の基材上に転写することができる。
<2> 熱効率がよく、高速化に適する熱ローラ定着によつて良好な定着画像ができる
<3> 現像装置は構造が簡単な磁気ブラシ方式が使用でき、キヤリアを用いないので、現像剤を攪拌するための攪拌装置を設ける必要がなく、トナーの補給量を厳密に調整するためのトナー濃度検知装置が不要である
<4> 定着装置は熱ローラ方式であるから、熱効率に優れ、装置の高速化、小型化が可能である(第四欄第一五行ないし第三九行)
という作用効果を奏する。
2 原告は、審決は、本願発明と第一引用例記載の発明とを対比判断するに当たり、第一引用例記載の技術内容を誤認した結果、両者はトナーの組成において一致すると誤つて判断したものである旨主張するので、まずこの点について検討する。
成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例記載の発明は、静電潜像を担持する光伝導性面にトナー粒子を付着せしめる現像装置(第一頁右欄第一〇行ないし第一二行)に関するものであつて、使用する現像装置及びトナー粒子について、「図2ないし5を参照する。これらには、本発明による現像装置16が、さらに詳細に示される。現像装置16は、枠50を有し、枠50には、補給磁性トナー材料53を収容するトナー層51が装着されている。磁性トナー材料は二つの成分からなり、その一方は磁性粒子で、もう一方はエレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー(検電顕像性樹脂粉末)である。(中略)米国特許第二六一八五五一号(中略)米国特許第二六一八五五二号及び(中略)米国特許第二六三八四一六号に記載されているような適当なエレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダーのいずれもが使用できる。」(第四欄第二〇行ないし第三〇行)と記載されていることが認められる。
そこで、第一引用例記載の「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」の技術的意味内容について検討すると、その文言を極く一般的な通常の意味に従つて解釈すれば、「検電顕像性樹脂粉末」を意味すること、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、「磁性トナー材料53は、樹脂材料を、まず細かく分割し、粉砕した後、磁性材料と混ぜ合わせることにより簡単に調整できる。磁性粒子が完全に結着剤で包まれていることを保証するには、徹底的に混ぜ合わせることが必要である。」(第五欄第六行ないし第一〇行)と記載されていることが認められ、「パウダー」の意味が細かく粉砕されたものを指すと解することに合理性があること、一般に各種の用途に使用される原料としての樹脂はペレツト、粉体等の形態で市場に供給されることが多いが、第一引用例記載の樹脂材料は前記のとおり磁性材料と混合する必要があるから、均一な混合状態を達成するためには原料として使用する樹脂の形態は粉末状のものが好ましいことなどからみて、第一引用例記載の「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」とは「検電顕像性樹脂粉末」のことであり、これは文字通り「パウダー」すなわち粉末形態のものというべきである。
また、第一引用例の前記「磁性トナー材料は二つの成分からなり、その一方は磁性粒子で、もう一方はエレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダーである」、及び「磁性トナー材料53は、樹脂材料を、まず細かく分割し、粉砕した後、磁性材料と混ぜ合わせることにより簡単に調整できる。磁性粒子が完全に結着剤で包まれていることを保証するには、徹底的に混ぜ合わせることが必要である。」との記載に加えて、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、「磁性成分は、ほとんど被覆されているか、又は磁性成分より面積的に多量の検電性成分にしつかりと付着していなければならない。その結果、この粉末は容易に静電荷像の影響を受け、これを現像する。これは、磁性成分自身は静電荷を帯電しやすいものでなく、また、単独では現像され得ないものであるためである。」(第四欄第五三行ないし第五八行)との記載が認められることを総合すると、磁性成分はエレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダーで被覆されることによつて初めて静電荷像を現像し得るトナーとなるものであることが理解されるから、「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」は、トナーの原料となるものであるが、磁性粒子と混合して初めてトナーとなるという意味においてそれのみでは完成されたトナー粉末そのものではないというべきである。
さらに、エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダーという文言中には、「レジン」(樹脂)という記載はあつてもカーボンブラツク、顔料という記載はなく、これらを含有するような表現も存しないこと、前記認定のとおり磁性トナーは二つの成分からなると明記されていること、前掲甲第三号証を検討しても第一引用例には前記個所以外に「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」という文言はなく、これを説明する表現は「レジン」又は「バインダー」(結着剤)と記載されていることが認められることを総合すると、「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」はカーボンブラツク、その他の顔料を含まない樹脂からのみなるものというべきである。
そして、第一引用例の前記記載事項からみて、「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」がトナー粒子の製造のための原料の一つであることは明白である。
以上の点について、原告は、米国特許明細書(甲第六号証、甲第一四号証の一ないし三五、乙第一号証)を引用して、「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」の語は、感光体の静電潜像に付着して現像を行う磁性トナー中の磁性粒子以外の成分、すなわち、トナー粒子を保形するバインダーであるとともにトナーを感光体に付着し現像させるよう機能する帯電性成分(検電顕像性バインダー成分)の全体としての組成が樹脂であることに着目して用いられているのであつて、トナーの組成成分である樹脂原料が粉末状であることに着目した語ではない旨主張する。
成立に争いのない甲第六号証、甲第一四号証の一ないし三五、乙第一号証を検討すると、これらの特許明細書には、「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」なる文言は見いだせないが、「エレクトロスコピツク・パウダー」なる語がトナーを意味するものとして多数用いられており、この用語が本願発明の属する技術分野ではトナーを意味するものとして使用されていることが多いと認められる。しかしながら、「パウダー」という用語は、米国において本来広く粉体一般を意味する語として用いられているから、この語が「エレクトロスコピツク」という特定の文言と結びついた場合にトナーという特殊な意味に理解されることがあるからといつて、当業者に必ずそのように限定して理解されるということはできない。当業者が第一引用例の前記記載事項に基づいて第一引用例記載の発明の技術内容を検討した場合、前記認定の理由により第一引用例記載の発明において「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」なる語を、トナー粒子を製造するための原料の一つであり、粉末形状のものであると認識するものと解することに不自然不都合は存しないから、原告の右主張は採用できない。
したがつて、第一引用例記載の「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」は、それ自身粉末形状であるが、トナー粉末そのものではなく、また、樹脂のみの粉末であり、顔料等を含まない、トナーを製造するために用いる原料のことであり、検電性(帯電性)を有するものであるということができる。
そこで、次に第一引用例が引用している甲第六号証明細書中の実施例3に記載されたポリスチレンが第一引用例記載の「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」に含まれるものであるかについて検討する。
成立に争いのない甲第六号証によれば、甲第六号証明細書記載の発明は静電荷像及び電子写真画像の現像に使用する新規な混合物とその混合物の適用方法に関するものであつて、その実施例3には、「ヴエルシコールAD六二三(ナフタリンの塩素化誘導体、(中略))四部とポリスチレン一部からなる検電性撒布粉末をキヤリアとしての塩化アンモニウム(一〇〇メツシユ)と混合し、得られた混合物は優れた画像を形成することが分かつた。」(第四欄第一六行ないし第二三行)と記載されていることが認められる。
そして、成立に争いのない甲第一五号証、第一六号証及び第一八号証によれば、ナフタリンの塩素化誘導体は検電性であり、ヴエルシコールAD六二三はトナーの検電性成分であると推認され、また、ポリスチレンが検電顕像性樹脂粉末であることは、当事者間に争いがないから、甲第六号証明細書の実施例3において、ポリスチレンは、検電性撒布粉末中に二〇%しか含まれていないとしても、八〇%を占めるナフタリンの塩素化誘導体とともに検電性であつて、トナーである検電性撒布粉末の原料となる樹脂のみからなる粉末であるということができる。
そうであれば、甲第六号証明細書の実施例3のポリスチレンは、第一引用例記載の「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」に含まれることが明らかである。
この点について、原告は、仮に、第一引用例が甲第六号証明細書の実施例3のトナーを引用していると解するのであれば、この場合における第一引用例の引用対象は、実施例3に記載されている非樹脂成分八〇重量%とポリスチレン二〇重量%からなる全体としての混合物材料であり、二〇重量%にすぎないポリスチレンにのみ着目して、第一引用例にはポリスチレン一〇〇重量%からなるものが開示されているとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら、検電性撒布粉末を構成するヴエルシコールAD六二三とポリスチレンは各々検電性でありバインダーになり得るものであつて、両者組み合わされて初めて検電性撒布粉末となるものでないことは前記認定事実から明らかであり、検電性撒布粉末の全体組成の中から樹脂成分であるポリスチレンを抽出して、これが第一引用例記載の「エレクトロスコピツク・マーキング・レジン・パウダー」に含まれると解することに誤りはないから、原告の前記主張は採用できない。
したがつて、甲第六号証明細書の実施例3のトナーを引用し、第一引用例には強磁性材料と樹脂とを含有するトナーが開示されており、その「磁性トナーの他方の成分である顕像樹脂粉末はポリスチレンのみからなるものであり、全樹脂に対する含有率は重量%で一〇〇%であることは明らかである。」とし、第一引用例には、「樹脂成分と該樹脂成分一〇〇重量部に対し二〇ないし七〇重量部の強磁性材料を含有し、該樹脂は重量で少なくとも二五%以上のスチレン成分を含有する練肉・粉砕法で製造された絶縁性である磁性トナーをキヤリアと混合しないで静電荷像現像剤として用いる」ことが記載されていると認定し、このトナーと本願発明のトナーとを比較して「両者は、樹脂成分と該樹脂成分一〇〇重量部当たり二〇ないし七〇重量部の強磁性材料を含有し、該樹脂は重量で少なくとも二五%以上のスチレン成分を含有する練肉・粉砕法で製造された絶縁性である磁性トナーをキヤリアと混合しないで静電荷像現像剤として用いる(中略)画像形成方法である点で一致し」とした審決の認定に誤りはない。
3 原告は、審決は、本願発明と第一引用例記載の発明との相違点(1)について判断するに当たり、本願発明と第一引用例記載の発明、第三引用例等に開示された周知技術とではトナーの帯電方法が異なるものであり、本願発明は他の格別の手段を必要とすることなくトナーを帯電し得るという顕著な作用効果を奏する点を看過した結果、右相違点は容易になし得るものと誤つて判断したものである旨主張するので、この点について検討する。
本願発明の特許請求の範囲には、非磁性スリーブと磁性トナーとの摩擦によつてトナー粒子が帯電されることについては何も記載されていないことは、当事者間に争いがなく、また、前掲甲第二号証の一によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「スリーブに対する磁石の相対的な移動に応じてスリーブ上に吸引されたトナー粒子が自転しながらスリーブ表面上を移動し、スリーブ表面とトナー粒子との間に生ずる摩擦によつてトナー粒子に適当な電荷が帯電される。」(第九欄第五行ないし第九行)と記載されていることが認められるが、ほかに非磁性スリーブと磁性トナー粒子との摩擦によつてトナー粒子が帯電されることについての記載は存しない。
もつとも、前記本願発明の要旨によれば、本願発明の特許請求の範囲には、「重量で少なくとも二五%以上のスチレン成分を含有する(中略)磁性トナーをキヤリアと混合しないで静電荷像現像剤として用いるとともに、非磁性スリーブと(中略)複数の磁極を有する磁石手段との相対的移動により前記スリーブ上に形成される磁気ブラシで基体上の静電荷像を現像し」と記載されているから、スリーブ上でトナー粒子が自転するか否かはともかく、スリーブと磁石の相対的移動で磁石に引きつけられた磁性トナー粒子が非磁性スリーブとの間で摩擦を生じることは十分起こり得ることと推認できる。
そこで、本願発明において、スリーブとトナー粒子が摩擦する場合トナー粒子が現像可能な程度に帯電するかについて検討する。
摩擦によつて帯電が起こることは一般によく知られた現象であり、その帯電の強さや極性(正、負)は摩擦する二つの物質の種類によつて大きく異なることは物理学上よく知られた事項である。
そして、成立に争いのない乙第二号証(昭和五三年特許出願公告第三〇四九三号公報)によれば、このような帯電性の傾向は摩擦帯電系列と呼ばれ、同号証記載の発明では、一成分系現像剤である磁性トナーが静電荷像支持体表面と接触した時に摩擦帯電電荷を得て現像を行い得るようにするために、特許請求の範囲に、トナー表面とトナー支持部材(本願発明の「スリーブ」に相当する。)表面との間では摩擦帯電系列上の位置は実質的な摩擦帯電を行わない程度に近くするとともに、トナー表面と静電荷像支持体との間では摩擦帯電系列上の位置はそれよりも遠く定める旨記載されていることが認められ、右記載事項から、トナー粒子に摩擦により帯電を付与する、又は付与しないためには、トナー粒子及びそれと摩擦する部材(トナー支持部材又は静電荷像支持体)の物質は、摩擦帯電系列上の位置を考慮して選定する必要があることが認められる(右乙第二号証は本件出願後に頒布された特許公報であるが、その記載内容に照らし、本件出願前周知の摩擦帯電系列を配慮したからこそ、かかる特許請求の範囲の記載になつたものと認められるから、右公報を前記認定の証拠とすることに妨げはない。)。
ところで、前記本願発明の特許請求の範囲には、トナー粒子についてはスチレン成分を少なくとも二五%含有するという物質に関する限定はあるものの、スリーブの物質については単に非磁性という以外には何の限定も存しない。そして、単に非磁性というだけでは多くの物質がこれに含まれるので、実質的に物質を限定したことにならない。また、前掲甲第二号証の一によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、スリーブ及びその表面の物質について、「なおスリーブとしてはアルミニウム、黄銅などの金属を用いることができ、このようなスリーブを用いる場合にはトナー中に電荷制御剤を含有せしめると好結果が得られる」(第九欄第一六行ないし第一九行)、「さらに、スリーブの表面に電荷制御剤を含有する薄層を設けることにより、トナー中に電荷制御剤を含有させずとも良好な帯電をトナーに付与することができる。このようなスリーブ表面に設ける電荷制御剤を含有する層は導電性の樹脂あるいは導電性でなくても、スリーブ表面全体の導電性をさほど低下せしめることのない樹脂、たとえばメチルメラミン樹脂などのメラミン樹脂あるいは六―ナイロンなどのポリエステル樹脂を結合剤とし、これに前記した如きトナーに添加されることができる種々の電荷制御剤を分散含有せしめたものが有効に用いられる。」(第九欄第二五行ないし第三七行)と記載されていることが認められ、右記載事項によれば、本願明細書には、スリーブ及びその表面に用いられる好適な物質が例示されてはいるが、スチレンを二五%以上含有するトナーに対して、スリーブ又はその表面に用いられる物質は摩擦帯電系列との観点からいかなるものを選定する必要があるかについては何らの記載も存しない。
したがつて、スリーブの物質については単に非磁性という以外には何の限定も存しない本願発明においては、摩擦帯電系列における位置との関係で現像を行うに足りる十分な帯電と極性をトナーに付与する場合もあるが、そうでない場合も含むことになり、結局本願発明がスリーブとトナーとの摩擦によつてトナーが帯電することを特徴とするものであるということはできない。
この点について、原告は、本願発明は、特許請求の範囲にキヤリアを混合しない一成分現像剤の絶縁性磁性トナーを用い、磁石と相対的移動をする磁性スリーブ上で磁気ブラシ法により現像を行う方法であることを明記しており、この方法によると、絶縁性磁性トナーは、通常の磁気ブラシ法で現像個所に搬送する間にスリーブ上で自転し、現像可能に帯電する。摩擦帯電は、互いに異なる極性に帯電する二物質をこすり合わせれば生じる現象であつて、当業者であれば、本願明細書の説明に従い通常の知識に基づき適当な条件を設定して実施できることである旨主張する。
しかしながら、本願発明は、その特許請求の範囲に非磁性スリーブの物質を限定していないから、本願発明の非磁性スリーブとトナー粒子とは原告主張のような互いに異なる極性に帯電する二物質という関係にあるとはいえず、原告の右主張は発明の要旨に基づかないものであつて、採用することができない。
したがつて、本願発明はスリーブとトナー粒子との摩擦によつてトナー粒子に現像可能な帯電を付与することを特徴とするものとはいえないから、本願発明がこのことを特徴とすることを前提として、審決は、本願発明と第一引用例記載の発明、第三引用例等に開示された周知技術とではトナーの帯電方法が異なり、本願発明は他の格別の手段を必要とすることなくトナーを帯電し得るという顕著な作用効果を奏する点を看過した結果、相違点(1)は容易になし得るものと誤つて判断したものであるとする原告の主張は、その前提において失当であり、第一引用例記載の発明において、その磁気ブラシ形成手段に代えて、第三引用例等に開示された周知技術を適用することは容易になし得るとした相違点(1)に関する審決の判断に誤りはない。
4 以上のとおりであるから、本願発明と第一引用例記載の発明との一致点に関する審決の認定、両者の相違点(1)に関する審決の判断は、いずれも正当であつて、審決に原告主張の違法は存しない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。
樹脂成分と該樹脂成分一〇〇重量部当り二〇~七〇重量部の強磁性材料を含有し該樹脂は重量で少なくとも二五%以上のスチレン成分を含有する練肉・粉砕法で製造された絶縁性である磁性トナーをキヤリアと混合しないで静電荷像現像剤として用いるとともに、非磁性スリーブと該スリーブの内側であつて、その周方向に沿つて設けた複数の磁極を有する磁石手段との相対的移動により前記スリーブ上に形成される磁気ブラシで基体上の静電荷像を現像し得られたトナー像を他の基体上に転写した後、該トナー像を熱ローラ定着することにより画像を形成する画像形成方法